根管治療を続けるよりもインプラントにしたほうがよい と言われたのですがなぜでしょうか?

 主治医の先生の判断では根管治療で治る確率、可能性よりも抜歯して インプラント治療をする方が治る確率、可能性が高いと判断されたのかと考えられます。

 

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<2005.9~2006.12 東京医科歯科大学むし歯外来調査>

『我が国における歯内療法の現状と課題』 日歯内療誌 32(1);1~10.2011 改変

このグラフはある期間に東京医科歯科大学むし歯外来を受診した患者に対して、根管治療を施した歯における病気の発現率を調べた結果です。 データを見てみると歯種に関わらず、約60%に歯の根の先からレントゲンに根の病気(根尖性歯周炎)と思われる影が確認されたことを示しています。これが一般的な根管治療の成績と過去のデータから判断されています。比較してインプラント治療は一般的に90%以上の成功率と報告されています。

治療後約40%の成功率の根管治療と90%以上成功率のインプラント治療を単純に比較すれば90%以上のインプラント治療を選択してしまうのはある意味正しい判断かと思われます。

一般的に根管治療の予後を左右する原因として、

・根管解剖形態が非常に複雑であること

根管の太さは0.1mm以下のところもあり、様々な形で枝分かれしています。

・器具による機械的清掃には限界があること

とても複雑な根管内をすべて削り取ることは不可能な上、削りすぎると歯そ のものが割れてしまうリスクがあります。

・薬液による化学的清掃には限界があること

毒性が少なく、殺菌力の強い薬液を用いていても、薬液に耐性がある細菌が存在します。

・そもそも原因が根の外側である場合が存在すること(根尖孔外感染)

・根の先とつながっていない独立した病変が存在すること(真性嚢胞)

・患者さんの全身的な問題による免疫不全で治癒できないこと

上記のような理由から歯内療法専門医が根管治療を行っても100%成功するとは言えませんが、根管治療専門医の根管治療の成功率は 下記の表示す通りです。

通常の根管治療で治らなかったケースに外科治療を適用すると現在のマイクロスコープを併用した外科的な根管治療では90%以上の成功率と報告されていますのでインプラント治療と成功率の上ではなんら遜色がないと言えるでしょう。

根管治療成功率 外科成功率 外科併用成功率
初回治療(根の先に病変なし) 90%以上 約90% 約99%
初回治療(根の先に病変あり) 約80% 約90% 約98%
再治療(根の先に病変なし) 約70~80% 約90% 約97~98%
再治療(根の先に病変あり) 約70% 約90% 約97%
再治療(根尖の破壊あり) 約50% 約90% 約95%

ただ、歯の状態は千差万別であることから、残っている歯が少なくすぐ割れてしまうことが予想されたり、治療が可能であっても噛み合わせの問題などの判断が必要であったりと様々な考慮すべきことはありますので、総合的に判断することが必要です。

また、そもそも根管治療は「歯があること」に対しての治療であり、インプラント治療は「歯がないこと」に対しての治療であることから本来は比較すべき問題ではないのです。本当に健康に向けてできる限りのことを、と考えておられるのであれば、残っている歯にできる限りの治療(根管治療)を施し、それでも残念ながら抜歯を余儀なくされた場合に、その時点ではじめてインプラント治療を考慮すべきかと考えます。

何よりも皆さんの大切な歯を本当に抜かなければいけないのかどうか、適切な診断をうけて問題を解決できる可能性のある歯内療法専門医やそれに準ずる知識技術を習得している歯科医師に相談をしてみてはいかがでしょうか?

もしかかりつけ医の先生が本当に抜くべきなのかどうか判断に迷っておられるのであれば、我々がお力になれることもあるかもしれません。

このコラムが皆様の判断の一助と成ることを願います。

執筆者:下山 智義 (PESCJ6期)

参考文献

須田英明『我が国における歯内療法の現状と課題』 日歯内療誌 32(1);1~10.2011

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