治療中の歯の根管が石灰化してあかない ってどういうことですか?
本来あるべき場所の根管の入り口が硬く閉じてしまい、存在しないかのごとくわからなくなっていたり、根管の道の途中で、硬く塞がり治療の器具が根管の尖端まで届かない、ということです。
根管の石灰化というのは、加齢や、神経に対する外来刺激が長期におよぶ場合(虫歯などの細菌の刺激や、歯が削られるなどの機械的刺激、神経を保護する治療での薬剤の刺激、また歯をぶつけるなどの物理的刺激)に対する生体の防御反応で歯の根管を構成する象牙質が添加される現象です。根管の穴(通り道)がどんどんせまくなり治療の器具が入っていかない場合があります。
この場合、レントゲン検査でも根管の穴が消えてしまったように見えます。
根管が確認できる例
根管が確認できない例
症例提供:高橋宏征先生
この石灰化してあかない根管は根管の病気や、病気のなおりとどう関係しているのでしょうか?
根の病気(根尖性歯周炎)の原因は細菌です。
石灰化で根の穴がとじて消えてしまったように見えても、細菌感染がある場合には根の病気ができます。そして、治療するためには根管の中をおそうじして細菌を減らす「根管治療」をおこなわなければいけません。
根管の中の細菌を殺菌できない場合は病気がなおらない原因にもなります。
根管が石灰化してあかないと、根管の殺菌消毒ができません。
この場合、『根管が石灰化してあかない』は病気のなおりに関係があると言えます。
石灰化で『根管があかない』場合、私たち歯内療法専門医はどのように対処しているのかをご説明していきます。
まずはあかない根管を見逃さない
私たち歯内療法専門医は術前のレントゲン検査の段階で、根管の石灰化を発見します。レントゲンでわかりにくい場合でも根管の形、位置などの解剖を熟知しており、あるはずの場所に根管の入り口がない場合は、石灰化を疑います。
症例提供:湯本真幸先生
根管の探索用の様々な器具を使用する
マイクロスコープの拡大視野下で象牙質の感触や色調を目安に、探索用のさまざまな器具を使用していますので、高い確率であかない根管の入り口をみつけて、根の穴を広げながら、おそうじ(殺菌処置)をおこなうことが可能です。
歯を余分に削り過ぎない方法をとります
上記のアプローチであかない根管に取り組んだ場合でも、どうしてもあかないこともあります。やみくもに根の穴を探索しながら器具を進めることは、余分に歯を削ってしまうことにもなりますし、方向を間違えた場合は歯に穴をあけてしまう(穿孔・パーフォレーション)という偶発症も起こりえます。歯を余分に削ることは歯が薄くなり、弱める原因にもなりますので、その場合はあえて根の穴を広げないで治療を終えることもあります。
石灰化してあかなくても治ることがわかっています
専門医が適切な治療をおこなっても、根管の入り口がどうしてもみつけられずあかないこともあります。無菌的な環境下で丁寧に洗浄を行うことによって例えあかなくても根の病気がなおることがあるのです。
症例提供:高橋宏征先生
外科的歯内療法で問題を解決する
適切な治療を行っても根管の病気がなおらない場合、別の方法は歯科用顕微鏡を使った手術をおこないます。根の尖端から細菌の住処を外科的に取り去り、充填(逆根管充填)をおこないます。
症例提供:尾上正治先生
※例え根の尖端まで器具が届いても、無菌的環境で治療を行ってない場合は、治療中にも根の中に細菌が入ってしまいます。そうすると結果的に根管の中の細菌が減らず、病気がなおりません。
治療の成功のために何よりも大切なことは、無菌的な環境で、根の中に治療中に細菌がはいらないように配慮した治療です。
『石灰化したあかない根管』でも個々の歯によって状況が違います。
根管の入り口からすべて石灰化してしまい根管全体があかない場合、または根管の途中からあかない場合、または根管の尖端のほぼ手前まではあいている場合などでは、根の中のおそうじができる範囲がちがいますので、細菌の量が相対的に違うといえるでしょう。一概に根管があかない状況をひとくくりで語ることはできませんがおそうじできる範囲が多ければ多いほど細菌は減ります。無菌的環境で適切なルールに則った根管治療をおこない根の中全体の細菌の量が減れば病気は治りやすくなるからです。
石灰化してあかない根管の場合、無菌的環境の整備がよりシビアになるでしょう。歯内療法専門医に受診し、現状と病気をなおすための対策方法、治らなかった場合の対策などについてセカンドオピニオンを受けてみるのも選択肢の一つであると言えるでしょう。