この疑問をお持ちの方の中には「もしかしたら残せるのではないか?」というお気持ちの方がいらっしゃるのではないかと思います。
我々のような根の治療の専門的なトレーニングを受けた医院の使命は歯と歯髄(神経)を保存する事です。
神経と根の病気に限れば我々は最大限にその保存にチャレンジできるといえます。
但し、他の要因が絡んでくるとそもそも根の治療の解決だけでは残せない場合があります。
ここでは残すことを試みるにあたって①根の治療で残せると思われる場合②根の治療だけでは残す事が困難に思われる場合を紹介します。
①根の治療で残せると思われる場合
単純に根の治療の問題だけなら通常の歯内療法と外科的歯内療法を合わせるとデータ上、90%以上の確率で解決できます。抜歯と宣告された理由が、治らない根の病気、大きな病変、本来の根の方向以外への器具の突き出し、治療器具の残りなどであればチャンスはあるかもしれません。
②根の治療だけでは残す事が困難に思われる場合
根の病気以外の病気、たとえば歯周病の問題や残っている歯が少ないなどを同時に抱えていれば問題は複雑化します。診査の後、様々な事を考慮して保存の可否を判断致します。むしろ抜歯をした方が、将来の患者さんの利益になると考える事もあります。
そこでここでは※AAEのガイドラインを参考にどのような問題が治療や保存の可否に影響を与えると考えられているかを見ていきましょう。
【以下AAEサイトより引用】
※AAE:アメリカ歯内療法学会(American Association of Endodontists)の略称。北米における根の治療の大きな学会組織
ご自身の歯の大規模な破壊
根まで虫歯が進行すると、根の治療ができなくなり、歯は抜かなければならなくなります。下図の黒い部分は、虫歯で、根まで進んでしまっています。
歯周病(歯槽膿漏)の歯
歯はしっかり噛むためにありますが、その歯を支えているのは骨です。その骨の溶ける病気が歯周病(歯槽膿漏)です。骨が溶けてしまうとしっかり噛めなくなりますので、根を治療しても改善しない場合があります。下図は、歯周病の歯で、黒い部分が骨が溶けていて、ぐらぐらして噛めません。こういう歯も、残念ながら抜歯となります。
Resorption(歯根吸収)
根に根尖病巣(膿み)ができると、骨を吸収しますが、まれに根を吸収することがあります。その場合、抜歯しない方法として通常の根管治療を行ない予後調査し治癒しない場合外科的に根の先を切除します。もしくは通常の根管治療と外科的な治療を併用します。
Iatrogenic issue(医原性問題)
医原性とは、医療行為が原因で生じる疾患で根管治療では治療用器具破折やパーフォレーション(歯にを開けてしまうこと)などがおもにあります。その場合、抜歯しない方法として、器具を除去できるなら除去して根管治療を行ない、穴が開いているならMTAと言われる歯科材料で埋めて根管治療を行ない歯を残すことが可能です。
Periradicular consideration(根の大きな病巣)
根尖病変の大きさも確認しておかないといけませんが、基本的に大きさが大きいからといって、抜歯とは限りません。しっかり無菌的な処置を行なって治療すれば治癒傾向を示す可能性はかなり高いです。
Root fracture(歯根破折)
歯根破折とは完全に根が割れていることを言います。歯根破折は抜歯しない方法は残念ながらないのが現状です。他にも様々な要因が絡みます。まずは歯内療法専門医に相談される事をお勧め致します。
執筆者:干野 洋(PESCJ4期)、伊藤 創平(PESCJ4期)、根井 俊輔(PESCJ5期)、東本 琢磨(PESCJ5期)