なぜ根管治療は100%治癒しないのでしょうか?

根管治療に限らず、医療全てにおいて100%治癒する治療方法は存在しません。それは治療方法の限界や個々の患者さんの治癒力に限界があるからです。

歯科医院で治療さえ行えば、痛み、腫れ、不快症状など悩んでいた症状が全て改善すると期待されている方は多いと思います。もちろん、我々歯科医師もそうなるように努力しています。

しかし、医療行為全てに言えることではありますが根管治療は、100%治癒するとは言い切れません。 不適切な治療が行われていれば論外ですが、ルールに沿った適切な治療が行われたとしても治癒しない場合が存在します。それにはどのようなことが考えられるか以下に説明していきます。

我々は、根管治療によって根管内から病気の原因となっている細菌を排除し、その後細菌の繁殖、再侵入を防ぐことにより病気の治癒・再発防止を図っています。
実際には、無菌的な環境整備を行い根管内に更なる細菌の侵入を防ぐとともに、以下の3つの方法で細菌を可能な限り少なくします。

1:歯の中の細菌や細菌の餌となる有機質、感染した歯質を除去し形態を整えます。
2:残った細菌を殺菌したり細菌を含んだ汚染物質を洗い流し、薬液により細菌の減少を図ります。
3:3次元的に緊密に歯の中を充填し、再び細菌が増殖する事を防ぐとともに細菌の栄養経路、侵入経路を遮断します。

この3つのステップを行った後、お口の中の細菌が再び歯の中に侵入することを防ぐようなしっかりとした修復(被せ物)を行う必要があります。

しかし、実際の根管は下の写真の様に複雑です。(紫色の部分が歯の神経、この部分を3つの方法を行い細菌を除去していきます。)

名称未設定 9
Vertucci FJ. Root canal morphology and its relationship to endodontic procedures. Endod Topics 2005;10:3–29.

このように複雑な形をした根管から原因となる全ての細菌を除去する事は、現時点では可能な方法がありません。また、細菌が根管の壁奥深くに入り込んで除去するには歯をほとんど削ることになってしまったり、元々の歯が薄く治療をすることで更に薄くなり歯が割れてしまう恐れから機械的清掃が十分行いきれないことなども挙げられます。また、細菌の種類によっては薬液に反応しない(殺菌できない)ものも存在し、治療を難しくしています。他の原因として、そもそも根の外側(根尖孔外感染と言います)や根とはつながっていない独立したところ(真性嚢胞と言います)に病気の原因があるため根管治療に反応しなかったり、患者さんの全身的なお身体の問題による免疫不全などで治癒しないなど様々な原因が考えられます。

以上はいわば現在の歯科医学の水準では処置の限界・現在の治療器具の限界です。この事が、根管治療は100%治癒しない理由です。

100%成功することは難しいことはお分かりいただけたと思いますが、それでは根管治療は一般的にどれくらいの成功率が期待できるものなのでしょうか?多くの報告から、成功率はその歯が初めて根管治療を受けるかどうかで大きく変わることがわかっています。成功率は初回の根管治療治療が一番高く、何度も治療していくことによりどんどん成功率は悪くなっていきます。

根管治療の成功率

初回治療(根の先に病気なし)

約90%

初回治療(根の先に病気あり)

約80%

再治療(根の先に病気なし)

約70~80%

再治療(根の先に病気あり)

約70%

再治療(根管形態の破壊あり)

約50%

 

ですから、根管治療が必要になった場合、初回の治療がどれだけ精密に確実に行えるかが歯を長く持たせるために必要なことなのです。

ルールに則った根管治療は最初に適用することで最小の介入で最大の効果を得られることと思います。

しかしながら現在マイクロスコープを使用した外科的歯内療法は従来の方法に比較して成功率が向上し(約90%)通常の根管治療で除去できなかった症状の改善をコントロールすることが可能になってきましたので、すでに何度も治療を受けた歯であっても、外科的歯内療法との組み合わせてで多くの歯が救える可能性があります。なかなか治らず成功率も100%でないからと諦める前に専門医にご相談をされてみてははいかがでしょうか?

執筆者:高橋 玄PESCJ6期)

参考文献

Influence of the Apical Preparation Size and the Irrigant Type on Bacterial Reduction in Root Canal-treated Teeth with Apical Periodontitis.Rodrigues RCV1, Zandi H2, Kristoffersen AK3, Enersen M3, Mdala I4, Ørstavik D2, Rôças IN5, Siqueira JF Jr5. J Endod. 2017 Jul;43(7):1058-1063.