レントゲン上の根の先の病気の大きさだけで「抜く」「抜かない」の判断はできません。
根の先の病気の原因は根の中への細菌感染が原因となりますが、病態として主に次の3つに分けられます。
①根の先の病気の原因が根の中だけに限局した細菌感染の場合
②根の先の病気の原因が根の中と根の外(歯周病)への細菌感染が合併した場合
③根の先の病気の原因が根が割れてしまっていて、そこへ細菌感染した場合
①根の先の病気の原因が根の中だけに限局した細菌感染の場合
歯の根の中へ細菌が入り込み根の先へ炎症を起こしそれが広がってしまう事があります。
この場合、根の治療により病気が治る可能性が非常に高く、抜歯が第一選択とはなり得ません。
(治療後:根の治療により大きな病変が縮小しました。)
(症例提供:高橋宏征)
②根の先の病気の原因が根の中と根の外(歯周病)への細菌感染が合併した場合
歯の根の中へ細菌が入り込み根の先へ炎症を起こすのと同時期に歯の外からの細菌感染が起こり(歯周病)根の中の炎症と歯の外からの炎症が合併してしまい非常に大きな病気となってしまう事があります。
この場合、根の治療を行った後、2~3ヶ月経過観察をしてどの程度病気の原因として根の中が原因であったのかを見極めた上で歯周病の治療を行います。
通常抜歯が第一選択とはなりませんが、歯周病の進行程度により抜歯が必要になる事もあります。
(治療例2:根の先からの病変と歯冠の側からの病変がくっついていることが認められます。)
(治療後:このケースでは根の治療だけで病変の改善がみられましたが、ケースにより根の治療の他に歯周病の治療が必要なケースもあります。)
(症例提供:湯本真幸)
③根の先の病気の原因が根が割れてしまっていて、そこへ細菌感染した場合
根が割れてしまってその隙間に細菌感染して炎症が広がってしまった場合は割れた部分が少なく取り除く事が出来れば治療の余地はありますが、例えば歯の頭から根の先まで割れてしまっているような場合は、残念ながら治療として抜歯する必要があります。
(治療例3:治療例2と同じような大きな病変の存在が認められます。)
(治療例3:治療を繰り返しているが、腫れが治らない状態です。)
(治療例3:歯の外側からはわかりませんでしたが、歯の中から亀裂線が認められ、残念ながら歯を残す事ができませんでした。)
(症例提供:高橋宏征)
いずれにせよ根の中の治療が不十分で治らないのか、歯周病が原因で治らないのか、一般的な治療ではなかなか診断が難しいのも事実で、(いたずらに治療が長引いてしまうくらいならば)抜歯した方が良いでしょう、という説明も一方的に否定する事は出来ません。また、完全に歯が割れている場合以外はレントゲンでヒビ(亀裂)は診断できない事が多く、歯科用顕微鏡による目視が唯一の診断法になります。
レントゲン上で大きな根の病気が疑われる場合は、簡単に治せる状態ではないことは確かです。ただ、根の治療が難しい状態だから抜歯をすすめられているのか、そもそも根の治療ができなくて(歯が完全に割れている/歯周病が重度であり歯を残せないことが明らかな場合などで)抜歯をすすめられているのかは、治療を選択する患者さんにとって非常に重要な情報です。 抜歯を行う前に、きちんとトレーニングを受けた専門性の高い歯科医師に詳しい診査をしてもらい、診断を仰ぐことをおすすめ致します。