国際外傷学会のガイドライン:永久歯の脱落(2012)によると事故現場での応急処置時の対応として
①患者を落ち着かせる
②抜けた歯を持つ時は歯の頭の部分を掴む
③歯に汚れがある場合は最大10秒間水洗する
④永久歯の場合、可能であれば、抜けた歯を元の位置に戻してハンカチを噛んで固定する
⑤元に戻すことができない場合は、抜けた歯を市販の歯の保存液・牛乳・生理食塩水等に浸す
⑥落ち着いて歯科医院に向かわせる
との記載があります。
しかし、現場で保護者の方々が、抜けた歯を「乳歯か永久歯か」判断することは難しく、お子さんの前歯が抜け落ち、精神的に動揺している状態で、抜けた歯を正確に元に戻して固定するのは非常に困難です。
では、実際に現場で歯が抜け落ちてしまった場合はどうすればいいのでしょうか?
まずは、かかりつけまたはお近くの歯科医院に連絡してご相談ください。
抜け落ちてしまった歯は拾う必要がありますが、その際は歯の細い根の部分ではなく頭の部分を掴んでください。そして、抜け落ちた歯を牛乳または保存液に入れて保存してください。お口の中に入れておくことも有効な手段ですが、小さなお子様の場合、誤飲、誤嚥の危険があるので注意が必要です。その後、落ち着いて歯科医院に向かってください。
歯が抜けるということは、その前後でお口の中の状態がまったく異なるため、お子さんは鏡を見てその変化にとても驚き、強い不安を抱きます。加えて、精神的な動揺により、その怪我を適切に表現することが困難になります。さらに、処置に際しても十分な協力が得ることができず、適切な治療ができない可能性もあります。そのため、お子さんに対して、優しい言葉をかけ、安心できる雰囲気を作ることがとても重要です。そして、できる限りスムーズに治療に入ることで、治療の成功率も高くなります。
また、歯が抜けるといった怪我は、口の機能や見た目だけでなく、心へも大きな影響を与えます。このような怪我は「1~2歳の乳幼児」と「7~8歳の学童」に多く、前者は転倒が最も多く、次いで衝突、転落、打撲と続き、多くが日常生活の中で発生します。 後者の原因もほぼ同じですが、その背景には交通事故や暴行、スポーツなどがあり、日常的な生活の中で発生するものはそれほど多くありません。特にスポーツでは転倒や衝突、接触などによる事故のリスクが常にあります。初期の適切な対応によって、好ましい治療結果が得られることが多いため、一般の方々も「抜けた時の応急処置」や「専門家による緊急処置の必要性」を知っておくことが大切です。
また、急なトラブルで歯が折れたり抜けたりした場合に、的確な指示や正確な治療をすぐに受けることができる環境づくりが重要です。
保護者・幼稚園・保育園の先生など、歯の抜ける現場に遭遇する可能性が高い方々はもちろんの事、一般の方々においても、事故に備え、「かかりつけ歯科医」を持つことをお勧めします。通い易く相談し易い「かかりつけ歯科医」は、有事の際に、未来ある子供たちの大切な歯を守ります。
参考文献
1. 日本外傷歯学会. 歯の外傷治療ガイドライン(2012)
2. 日本小児歯科学会. 小児の歯の外傷の実態調査(1996)
4. 八若保孝. 104 来院時に知っておく必要事項. In: 木村光孝(監修) 新装版 子供の歯に強くなる本. 東京:クインテッセンス出版2012;301 305.
5. 八若保孝. 8章 小児歯科 07小児口腔外傷への的確な対応. In:北村和夫, 岩淵博史, 飯野文彦, 田中晃伸, 坪田有史(編)日常臨床のレベルアップ&ヒント72 デンタルダイヤモンド, 2015 ; 158-159