疾病に陥った歯を可能な限り治癒させ保存することは私たち歯科医の共通の願いです。しかし残念ながら根の治療ができなかったり、歯の保存が見込めない状況がいくつか存在することもまた事実です。 今回はそのお話をさせていただきたいと思います。
例を挙げると以下のような事があります。
1: 無菌的な環境整備が困難である場合
2: 根の治療後に歯の機能に対して懸念がある場合
3: 根が縦割れをしている場合
4: 痛みの原因が歯ではない場合(非歯原性)
1: 無菌的な環境整備が困難である場合
1つ目に関して、私たちが通常根管治療で主に行う事は、根の中に存在する細菌を除去して再び根の中に細菌が入らない様にする事です。治療に際してラバーダム(コラム「ラバーダムを、なぜする必要があるのでしょうか?」参照)を使用しますが、それが出来ない場合、 根管治療を行って歯の中から細菌を除去しても新たに歯の中に細菌を入れ込んでしまうことになります。ラバーダムを使用するにあたり、歯にリングをかけて(クランプ)装着するのですが、残念な事にリングを装着する事が出来ない程、残っている歯が薄かったり歯茎の周囲に問題がある場合、また開口量が極度に少ない場合などはラバーダム装着が困難になる可能性が高く、治療前にご相談をさせて頂く事があります。
2: 根の治療後に歯の機能に対して懸念がある場合
2つ目に、根管治療によって根の先の炎症を解決できそうだとしても、既にグラグラしている歯であっ たり、根の長さが極端に短かい場合や根の厚みが薄い場合、根管治療後の歯の機能(揺れて抜けないかどうか、割れずに噛めるかどうかなど)に対して懸念しなければならない事もあります。その処置が本当にご自身の利益に繋がるのか、事前に十分にかかりつけの歯科医と相談をしておくことが必要です。
3: 根が縦割れをしている場合
3つ目に関して、私たちは診査・診断を行って処置を行いますが、診査の際に根が縦に割れている場合や実際に根管内部の汚れを除去すると根の中から根の先へと続く縦に走る亀裂を確認する事があります。
根が縦に割れている歯に対する治療方法について、科学的に裏付けられたエビデンスを世界標準で検討しますと、残念ながら現時点で推奨される処置は抜歯となります。ただこれはあくまで選択肢の一つであり、かかりつけ医との十分な話し合いの上で、それぞれの選択肢のメリット・デメリットを理解なさっているのであれば、歯を抜く選択をするのではなく何もしないということも選択肢の一つです。
4: 痛みの原因が歯ではない場合(非歯原性疼痛)
4つ目に関して、痛みの原因が、歯に関わりのあるものでなかったら歯内療法を行ってもお困りの症状が消える事はありません。
お困りの症状に対して私たちは、その症状を可能な限り再現し診査・診断を行います。
そして、その症状の原因が歯に関わりがにあった場合のみ処置を行います。
歯が痛いように感じても痛みの原因が歯ではない事もあります。そのような疑いがある場合には、後戻りが出来無い処置を行う前に口腔顔面痛の専門知識を持つ医師を紹介させていただくこともあります。
以上、私たちが根の治療をできない場合や根の治療以外を提案する場合についてのお話をさせていただきました。
ここに述べさせて頂いた事は一つの事例であり他の事例もまだありますので、このコラムだけでご理解できない部分もあるかもしれません。もし疑問などありましたら担当されている先生 または専門医レベルの知識を持つ歯内療法医に一度ご相談な さることをおすすめいたします。
参考文献
Rosenberg, Paul A. “Endodontic pain.” Endodontic Topics 30.1 (2014): 75-98.