根の治療が終わりました。今後も通院は必要でしょうか?

根の治療を行っても100%治癒するものではありません。治癒せず病気が進行したり、再発することもあるので経過観察が必要となってきます。

・根管治療が終了した後は『経過観察』が必要

 歯がズキズキと痛み神経を取ることになった歯や、根管治療を行ってもレントゲン上で病変が確認できる歯や、破折・穿孔(パーフォレーション)により病変ができた、など根管治療に至る原因は様々です。しかしながら根管治療が必要な病気(根尖性歯周炎)の原因は細菌感染によるものであることはKakehashiらによって証明されてます。そのため根管治療の目的である根尖性歯周炎の予防と治療において細菌の数をいかに減らすか(bacterial reduction)はもっとも重要なコンセプトです。しかしながら実際に治療によって細菌を完全に除去することは現在の歯科医学では不可能で、それは解剖学的な理由や細菌学的な理由、病変の進行程度、歯科医学の限界、等々様々な理由が挙げられます。細菌の完全な除去ができなくても宿主の防御作用により病変は縮小することが多いですが、その後治癒に向かうのか再発するのかは経過を見て判断する必要があります。また治療後も症状やレントゲン的な治癒を認めない場合は、さらなる治療が必要になる場合があります。

・成功率

これまでのコラムでも書かれていますが、北米において専門医が治療した場合の根管治療の成功率は、以下の通りです。

根管治療(病変なし)90%以上

根管治療(病変あり)約80%

再根管治療     70~80%

再根管治療(病変あり・根管形態の破壊あり)約50%

再根管治療で根尖病変があり、さらに根管形態が壊されていると特に成功率が低いことがわかっており、再根管治療では治癒しない場合に外科的歯内療法が必要となってきます。現代の外科的歯内療法での成功率は94%ほどであると言われており、再根管治療で治癒を認めなくても、外科的歯内療法を併用することでより多くの歯を保存することが可能とも言えます。

・病変が持続する原因

Siqueraらは2008年の論文で細菌と宿主抵抗性の関係について、『細菌は病気を引き起こすのに十分な量の細胞に到達しなければ臨床徴候や症状は明白でなく、細菌レベルがその閾値に達し、それを超えた後、根尖性歯周炎が確立される。治療により細菌レベルをその閾値以下に下げることに成功しなかった場合病気は持続し、治療の成功は必ずしも根管内を滅菌する必要はないが、治癒に至るレベルまで細菌集団を減らすことである。』『大部分の根管内細菌は通常の根管治療で大きく減少させることができる』と述べています。

治療後の経過観察時に根尖病変の持続あるいは再発が認められる場合、考えられる原因として、

①治療抵抗性のある細菌が存在する

失敗した治療において多く検出されるE.feacalisは根管貼薬剤である水酸化カルシウムに抵抗性を示すことがわかっています。

②治療後に再度感染を起こしている

治療後に再度感染を起こしている原因としては根管治療後に緊密な修復が行われていない場合に細菌が再度侵入することで病気が再発しまうことがあります。そのため根管治療後には速やかに緊密な修復をすることが推奨されます。

③破折

顕微鏡で確認できないような細かな破折や、根の先端の方から発生する破折(垂直性歯根破折)の場合もあります。破折部位に細菌が増殖し根管治療では十分に除去することが困難です。

④解剖学的な理由や根尖孔外感染

根管の中には器具や洗浄剤、消毒薬が到達できないような複雑な形態を有しているものがあります。また、根尖孔外感染(根の外に細菌が感染している)場合に通常の根管治療では細菌を十分に除去できません。

特に①、③、④は術前の診査で把握することは難しいこともあり、治療が奏功したかどうか判断するためには経過観察が必要になります。

・成功の基準と経過観察時にチェックすること

根管治療における成功の基準はいくつかの指標を用いて行われています。

(詳しい指標についてはQ,根の治療(根管治療)は何を以って治ったと言えるのですか?を参考にしてください。)

治療結果の臨床的判断は、痛みの症状・打診・圧痛・腫脹・瘻孔がないこと、X線撮影で病変が縮小していること、歯根膜の連続性が確認できるか、ということを基準にしています。

・経過観察の期間

根尖性歯周炎の大部分は1年以内に治癒するが、治癒は4年以上継続する可能性があると言われています。また、Molvenらが治療後に根尖病変のある歯で長期経過(20~27年)観察を行うと治癒までに時間がかかるケース(late sucsess)があったと報告しています。反対に失敗と判断されるまでに時間がかかるケース(late failure)もあることが報告されたり、一度消失した病変が再発した報告もあります。

(治療後症状も消失し治癒傾向が見られたが1年6ヶ月後の経過観察にて透過像の拡大を確認。症例提供:髙橋宏征先生)

治療の成功に関与する因子は術前にレントゲン上で根尖病変がないもの、緊密な根管充填、X線的根尖2mm内の根管充填、良質な歯冠部修復の4つで有意差があったと報告されています。

経過観察時の評価として臨床症状だけでなくレントゲン撮影は必須となります。

・まとめ

臨床症状がなくても病気が治癒していないケース、一旦治癒に向かっていたが再発するケース、治癒に長期間を有するケースなどがあるため、治療後も定期的な経過観察を行い、必要に応じて治療介入を行うことが長く歯を保存するために必要だと言えます。

執筆者:川島 由衣PESCJ9期)

<参考文献>

1)The effects of surgical exposures of dental pulps in germ-free and conventional laboratory rats. Kakehashi S, Stanley HR, Fitzgerald RJ. Oral Surg Oral Med OralPathol 1965

2)Outcome of primary root canal treatment:systematic review of the literature ‒ Part 2.Influence of clinical factors Y.-L. Ng,et al IEJ 2018

3)Periapical changes following root-canal treatment observed 20^27 years postoperatively O. Molven,et al IEJ 2002

4)Clinical Implications and Microbiology of Bacterial Persistence after Treatment Procedures José F. Siqueira Jr,et al 2008 JOE

5)石井宏 世界基準の臨床歯内療法 医歯薬出版 2015年第一版