Q: 痛みの原因は様々です。痛みの原因を診査診断で正しく判断し、その上で適切な治療法を選択、提供するためです。
受診した当日に痛みを解決するために歯を歯科医院で削ってもらえることは、痛みで辛い思いをしておられる患者さんには、一見すると良い解決法のように思えます。
しかし当コラムにて痛みの原因は様々であるとお伝えしてきたとおり、顎顔面領域は複雑な神経システムで構成され、痛みの原因を本当に特定しないまま治療を行うことは、たとえ一時的に痛みが引いたとしても根本的な解決にならない場合があります。
1診査診断の重要性
痛みを訴える患者さんの問題を改善するために、適切な治療法を選択することは重要です。治療法を選ぶために、まず様々な情報が必要となります。情報を得るために歯を触ったり、叩いたり、エックス線撮影をすることを診査診断と呼びます。
痛みに関する診査診断は特に重要で(2018年9月「痛い歯が分かっているのに、どうして治療の前に熱い物や冷たい物や電流を流して歯の状態を調べるのですか」参照)歯科医師はその診査診断をもとに、
①患歯の特定(痛みの原因はどの歯なのか)
②患歯の病態の把握(痛みの原因歯の診断名をつける)
③本当に歯が痛みの原因なのか
を決めます。ここで間違えるとその後の治療法も自動的に誤ってしまうのです。え?そんなことを誤ることがあるの?と思われがちですが、実は痛みの診査診断が重要なのは①患歯の特定や②患歯の病態把握が困難な場合が多いからです。
そこで以下の作業を丁寧におこないます。
①については、痛みを訴えられる患者さんの「健康な歯」と「痛い歯」を色々比較します。左右・上下・隣り合う歯など、多角的に検証し、場合によっては複数回同じ作業を行い、痛い歯は結局どの場所のどの歯なのかを決定します。
②については、歯は硬組織で覆われているため、外から見るだけは歯の中の状態は歯科医師でもわからないのです。従ってエックス線写真を撮影したり、温度(冷・温などの温度刺激)による変化を観察したり、実際に叩いたり噛んだりしてもらって歯のおおよその病態を把握します。
十分な問診後に①②を経て、最終的に患者さんの訴える症状に近い痛みを再現できて初めて歯科医師はその病態となる原因(虫歯、根尖病変、噛み合わせの問題、打撲、歯周病etc)を突き止め、原因を除去するための治療法を決定できるのです。
③については、上記の①②でもし残念ながら痛みの再現ができなければ、これは歯が原因ではない、すなわち非歯原性疼痛が疑われる状態となります(2017年2月「歯が原因ではないのに、歯が痛くなることがあると聞きました。どのような場合か教えてください」参照)。非歯原性疼痛の状態で歯を削ることを行ってしまえば、歯が原因でないわけですから、削ったけど歯の痛みは消えないということになります。
さらに複雑な場合もあります。実は③が単独とも限らず、①②の状態である程度歯が原因であると特定されても治療後に痛みが残る場合もあり、そうなると①②③全ての複合的な観点から歯の痛みを考えないといけない、ということも時に起こりえます。
従って、歯を当日削ることが診査診断の結果で正しく導いた結果であれば良いと考えますが、そうでない場合には即日で歯を削ることが良いとは決して言えないのです。
2診断がつくことによる患者利益
診断ができたら、歯科医師はその診断に対する有効な治療法を患者さんに提示します。そして患者さんと話し合いにより最善の治療法を同意・決定していきます。
一度削ってしまった歯や除去してしまった神経は元に戻すことはできません。やみくもに治療介入せず、しっかりと診断して治療を始めていくことにより、不必要な治療を未然に防ぎ患者さんの悩みを結果的に短期間で改善することにも繋がります。
また痛みの状態も日々変化することも多いため、どうしても診断がつかない時には、安易に治療を開始せず、診断がつくまで少し日数を空けて経過を観察する待機的診断という方法も歯科医師と患者両者の相談により選択することがあります。
3歯内療法専門医を受診すれば、さらにどのような可能性が広がるか
痛みに関する治療は、実際には歯内療法領域の作業であることが多いのですが、既述の通り、原因の特定が難しい場合も少なくありません。
歯内療法専門医は歯の痛みの原因がどこにあるか十分なトレーニングを受け日々臨床を行なっておりますので、通常の診査では特定しづらい原因も見つけることが可能かもしれません。
従って、かかりつけ医である歯科医師が特定しづらく歯内療法専門医を紹介することもあります。
また患者さん自身でも度々痛みが再発する、あるいは根の治療に長期で通っているにもかかわらず解決しない場合には、歯内療法専門医を一度訪ねてみるのも良いかもしれません。
歯内療法領域の痛みで患者さんが悩んでいるとすれば、痛みを引き起こしているのは炎症によるものであり、炎症を引き起こしている真の原因は細菌であると言えますから、歯内療法専門医が原因歯と歯の病態を特定した上で最短で治療を行うことで痛みが解決するかもしれません。
また診査診断結果により、解決しない非歯原性の疼痛であると示唆をしてくれる場合もあるでしょう。