治療後、ずっと痛みがあるのですが歯には異常がないと言われました。痛みの原因はないのでしょうか?  

痛みの原因は様々で、一般的な検査では見逃されてしまうことがあります。

歯の痛みについて

歯科医院に来院される患者様の悩みの一つとして、痛みがあります。歯自体で感じる痛みや、歯の周りの歯周組織などで感じている痛み(歯原性疼痛)、そして歯が原因でない歯の痛み(非歯原性疼痛)なども存在し、患者様の持つ痛みの原因を明確にすることは時に難しいと言えます。

本コラムでは「一度すでに根の治療が行われている歯なのに、痛みを感じる」という場面を想定して、歯科医師の診査診断の過程を紹介しながら、痛みの原因を見ていきます。

①どうやって歯が痛みの原因である、と突き止める?

正確な診断がなければ、治療法を選択することすら困難です。歯科医師は患者様の実際のお口の中で痛みを再現することで「これが痛みの原因の歯である」と判断します。噛んだ時に痛い、冷たいものや熱いものが痛い、痛みがジーンと持続するなどが特定の歯や周囲組織で再現できることができるなら、その歯が痛みの原因と特定できるのです。

正しく診査診断をするためには?

・まず情報収集

自発痛(何もしていなくても痛い)が有るのか無いのか、誘発痛(噛んだ時、触れた時など)が有るのか無いのか、さらには全身的な現在・過去の病歴、現在の訴えである痛みの既往(ずっと痛いのか、徐々に痛くなってきているのか、断続的な痛みなのか、一定なのかetc)・性質(鈍い、鋭い、長引く、断続的etc)・痛みを与える要因(空気、冷たい、熱い、寝ている時、噛んだ時etc)などを細かくご本人の言葉で聞くことで、状況の把握をします。また、お口の中を拝見してむし歯で穴があいていないかどうか、詰め物の状態、歯のヒビ等、歯の状態が正常かどうかを診ていきます。

・実際に診査

歯を叩いてみたり(打診)、触ってみたり(触診)、冷たい刺激(冷診)、温かい刺激(温診)、電気の刺激(電気診)など、丁寧に診査を行い反応を見ます。また歯の周囲組織も含めて細かく診査して、痛みの由来が歯なのか周囲組織なのかその両方なのか、もしくは痛みの由来が歯や周囲組織に見当たらないのか診査します。

特に再根管治療の場合、X線のみの診査では診断が確定しにくい場合があり、近年ではCT撮影とマイクロスコープが診査のツールとして活躍しています。

・最終的な診断

上記のような様々な診査の結果、根管部と根尖歯周組織部に診断がつきます。

稀ではありますが結果として、根管治療を行うことで最終的な診断がつくようなこともあります。

診査診断の結果、歯に痛みの原因が存在する場合、その正体は炎症です。歯髄であっても根尖周囲組織であっても、炎症は刺激源と生体の免疫反応の結果として起こり、痛みを引き起こす発痛物質が出ると痛みを引き起こします。したがって炎症を起こす何らかの理由が歯に存在していることになります。

③炎症の原因は?

炎症の原因となるのは本ECJのコラムにも度々出てくる細菌感染です。細菌を除去できない、あるいは細菌がどこからか侵入しで炎症が起こる結果、「ずっと痛い」となります。幾つかの理由によりますが

・感染している細菌除去が不十分

細菌が根管内や根尖付近に残っていると、炎症の原因になります。

・別の感染経路がある

ある研究で、根管治療をしている歯が抜歯になる原因として被せ物(補綴物)の不適合や歯周病の進行度が、歯内療法(根管治療)の経過不良よりも大きな要因としています。すなわち修復物や被せ物の質が悪いと、そこから再び細菌が根管に入り感染します。歯がすでに割れている(破折)、歯周病から感染が起こっているなど別の感染経路が考えられます。

・解剖学的形態が複雑ゆえの不確実な根管治療

その複雑な歯の根の形のため、器具や薬液をいくら到達させようとしても器具が届かなかったり不十分である事が多いのです。

・根管の見逃し

以前に根管治療されていても、見逃された根管、あるいは石灰化している根管が存在すれば、壊死した組織や細菌が存在することで慢性の炎症が存在します。

・過去の治療の影響

以前に根管治療されている歯はすでに治療歴があり元々の歯の形を留めていないこともあります。手を何度も加えられている歯は、その後の治療をより複雑にして治癒を妨げることもあります。

④痛みを取り除くため何ができるか?

歯が割れている、歯周病など別の感染経路があれば、歯内療法以外の治療かあるいは抜歯となり、再根管治療の余地はありません

再治療においては、炎症を取り除いて痛みの原因である細菌をなくすことができるのか、根管治療の対象歯であれば以下のようなガイドライン(Karabucak B,et al.,2007)等に則って歯科医師が判断していくことになります。

1、根管治療の質を向上できるか?

2、見逃された根管がありそうか?

3、修復物は漏洩しているか?

4、根管系へのアクセスは可能か?

5、除去は安全にできるか?

6、自分のスキルと経験値の範囲内か?

7、器具・環境は整っているか?

ガイドラインを正しく判断できる知識やスキルなど、的確な判断を歯科医師ができることが前提であり、その点で対処作業を日常的におこなっている根管治療専門医の判断が信頼できると言えます。

⑤歯に痛みの原因がみつからない場合はどうするのか?

歯内療法専門医が診査診断のして痛みの再現が出来なかった場合、すなわち原因が歯や周囲組織に存在しなかったり、痛みとの因果関係が不明な時には根管治療の対象とならずの再根管治療は行いません

もちろん、これは診査をした時点での判断となり、痛みの再現ができない、はっきりしないような場合、後日時期をずらして再診査を行い正確に診断を導くようなこともあります。(待機的診断)

歯以外(非歯原性)の問題が原因で痛みを感じる場合を非歯原性疼痛と呼び、歯内療法専門医と口腔顔面痛の専門医が連携をとり、専門医による適切な治療を受けることが必要です。(詳しくはコラム「歯が原因ではないのに、歯が痛くなることがあると聞きました。どのような場合か教えてください。」参照)

 

痛みの原因を知り治癒につなげるために・・・専門医を受診するという選択

本コラムのように、痛みの原因は本当に複雑で、単純な作業で発見することもあれば、その原因にすらたどり着くことが難しい場合も多いのです。

そのような状況を打開するためには、この複雑な痛みに対する知識を持ち、原因を探り、対処するという作業を日常的に反復して行っている歯内療法専門医に依頼するのが、治癒につながる可能性が高いと言えるでしょう。

 

執筆者:大森さゆりPESCJ7期)

参考文献

1. Glassman, G., Krasner, P., Morse, D. R., Rankow, H., Lang, J., & Furst, M. L. (1989). A prospective randomized double-blind trial on efficacy of dexamethasone for endodontic interappointment pain in teeth with asymptomatic inflamed pulps. Oral surgery, oral medicine, oral pathology, 67(1), 96-100.

2. Pak, J. G., & White, S. N. (2011). Pain prevalence and severity before, during, and after root canal treatment: a systematic review. Journal of endodontics, 37(4), 429-438.

3. Rosenberg, P. A. (2002). Clinical strategies for managing endodontic pain. Endodontic Topics, 3(1), 78-92.

4. Karabucak, B., & Setzer, F. (2007). Criteria for the ideal treatment option for failed endodontics: surgical or nonsurgical?. COMPENDIUM-NEWTOWN-, 28(6), 304.