根管(歯の根)の病気(根尖性歯周炎)の主な原因は細菌の感染であると考えられています。その細菌を根管内から除去するために根管治療が行われます。
根管内は形態が複雑で完全に中を清掃するのは困難であることや、根管内に存在する細菌がバイオフィルム(様々な種類の細菌が凝集し共同体として生存しているもの)を形成するなど治療に抵抗性を持っていたり、器具の届かない根管の外に感染が広がった場合など通常の根管治療を行なっても、なかなかよくならないケースがあります(難治化)。(1)
以上のことから統計学的に根管治療の成功率は再治療の場合は60~70%くらいだと言われています。
また再治療の意思決定をする際には
・根管充塡の質が改善可能か
・見落とされた根管の有無
・歯冠側からの漏洩の有無
・根管へのアクセスが可能か
・歯質にダメージを与えずに修復物の除去が可能か
という点を考慮します。(3)
これらを改善可能と判断した場合は外科的でない再治療が選択されます。
逆にこれらの点を改善、あるいはクリアできない場合に次の治療の選択肢として外科治療が検討されます。
外科治療においては、歯ぐきを切開し、骨を削り、根の先3mmほどの根管内、根管外の感染の原因と考えられる部位を機械的に除去する歯根端切除術、あるいは一度歯を抜歯し、口腔外で根の先を処置して元の位置に戻す意図的再植術という方法があります。
外科的な治療は、歯ぐきを切開したり骨を削ったりと侵襲が大きいというイメージがあるため、治療をためらわれる気持ちは十分理解できます。
しかしながら、外科処置以外で対応することが困難であったり、ほぼ不可能と考えられる症例があることも事実なのです。
ケース1:イスムス(根管と根管の間をつなぐ経路)
このような場合通常の根管治療では器具を到達させ清掃することは困難。
ケース2:根尖部破折
根尖部に限局した破折(クラック)の場合外科処置以外で対応することは不可能。この症例では破折を起こしている部分を除去しています。
近年の外科治療はマイクロスコープの使用の他、器材や材料の進歩などによって90%以上と高い成功率を示しています。(2)
もちろん可能であれば、まずは外科的な治療の前に非外科的な治療が第一選択となりますし、外科の適応症とならないこともあるため一概には言えませんが、ケースによっては外科治療がより有効な選択肢となる場合もあるのです。(3)
先ほどあげたように、通常の根管治療によって腫れや痛み、排膿などの症状が改善せず治癒の兆しがみられない場合や、大きくて長いポスト(土台)が根の中に入っていて、削って除去することで、歯質が割れる危険性が高い場合(写真)、また根にヒビが入っている可能性が考えられる場合には、それを確認するために外科的に歯ぐきを切開して確認する場合もあります(診断的外科)
意図的再植術は主に解剖学的な理由により歯根端切除術が適応とならない場合に行われるものですが、歯根端切除術と比較して手術時間が短いことから、医科的な疾患を有する患者さんや高齢の患者さんにとっては身体的な負担が軽減されることもあります。
このように、外科的な治療を行なった方が歯質を多く保存できたり、治療回数も少ないなど結果的には侵襲も少なく、歯を保存し長期間機能させる上でより適切な治療の選択肢となり、外科治療の方が費用対効果として有利な場合があります。(4)
治療法、かかるコスト、歯の保存や治療後の予後の見通し等について、主治医の先生とよく相談し、外科も治療法の選択肢として考えてみられることをお勧めします。
<参考文献>