A:根の病変は、通常(非外科的)の根管治療では治癒しない場合が考えられます。外科処置はそのような場合に備え、治療成功に導く「次の一手」として歯内療法専門医は同時に説明します。
過去のコラム(2013年12月25日「成功率から見える根管治療の実情」)ですが、現代の世界基準のルールに則った通常(非外科的歯内療法)の根管治療の成功率は、
根の先に病気の無い初めての根管治療で約90%、
根の先に病気の有る初めての根管治療で約80%、
以前行った治療の再治療で約70%
といくつかの報告⑴⑵があります。
すなわち、現代の世界基準のルールに則ったとしても100%の成功率ではありません。
特に再根管治療で根管形態が過去の治療等で保たれていないような場合、成功率は50%以下⑵であるとの報告もありますので、通常の根管治療には限界がある、と言わざるを得ないのです。
①なぜ難治化するのか
現代の世界基準のルールに則った通常の根管治療にて治癒しない症例を「難治化」しているなどと呼ぶことがありますが難治化の原因もすでにコラム(2016年12月27日「今まで根の治療を繰り返してきましたが、専門医の治療では再発はないのですか?」)で
1)根管の形態に由来する要因
Vertucci FJ. Root canal morphology and its relationship to endodontic procedures.Endod Topics 2005;10:3–29.
2)微生物に由来する要因
Er:Yag laser irradiation of the microbiological apical biofilm.Braz. Dent. J. vol.17 no.4 Ribeirão Preto 2006
と説明してきたようなことに起因することが報告されています。
このような難治化した症例では、外科処置(外科的歯内療法)の適用となります。
②外科処置によって何が解決できるのか
具体的にどのような場合に外科処置が必要とされるのかを示します⑶
・治療に反応しない膿の通路の存在
・治療に反応しない炎症による疼痛の継続
・穿孔や破折器具等の問題が存在し、外科処置以外では問題解決ができない場合
・土台や被せ物の撤去が技術的に困難な場合
・被せ物の除去に関して患者の同意が得られない場合
・根の破折等の診断的処置として行う場合
すなわち
「通常の根管治療でうまく治癒しない」
「通常の根管治療がほぼ不可能」
「そもそも根管治療の適応対象外であると思われる、歯の確定診断」
と分類される場合に外科処置に踏み切る、そして通常の根管治療では治癒しなかった症例を解決します。そしてそのような症例に実際、ある程度の頻度で遭遇します。
③非外科処置と外科処置を組み合わせると
マイクロスコープを併用し、肉眼では確認できない部分の精査を行い、マイクロインスツルメントで処置を行う外科処置「マイクロサージェリー」の成功率は約90%⑷であり、従来の外科処置の成功率よりも高いことが報告されています。
その報告を当てはめれば、コンセプトを遵守した通常の根管治療で治癒しない症例でも、
根の先に病気の無い初めての根管治療で約90%、治らなかった10%にマイクロサージェリー→約99%
根の先に病気の有る初めての根管治療で約80%、治らなかった20%にマイクロサージェリー→約98%
以前の治療の再治療で約70%、治らなかった30%にマイクロサージェリー→約97%
マイクロサージェリーを組み合わせる事でさらに多くの症例を治癒に導くことが可能となり、また治癒しない場合でも、治癒しない理由の診断が可能となると考えられます。
またマイクロサージェリーでも解決に導けない、あるいはマイクロサージェリーが不可能な症例には、同じ外科処置に分類される「意図的再殖」という手段も用いる場合があります。
通常の根管治療と外科処置の組み合わせは、根管治療に悩む患者にとって非常に有効な解決手段となり、通常の根管治療に追加して外科処置を説明する事は必須と言えます。
④ではどこに行けば外科処置(マイクロサージェリー)まで含めた説明を受けられるのか
今、外科処置を含めた根管治療は既に歯科医院にも受け入れられ始めています。しかしまだまだ根管治療の外科処置(マイクロサージェリー)に精通している医院は少ないのも事実です。やはり通常の根管治療と外科治療(マイクロサージェリーの両方に精通している歯内療法専門医を受診されるのが歯を保存的に治癒に導く可能性を高めます。
⑵Gorni FG, Gagliani MM .”The outcome of endodontic retreatment.” J Endod. 2004;30⑴:1-4