深い虫歯で、歯の神経を助けたくて特定のお薬を使った治療を受けたのだけれども結局痛くなってしまい、神経を取るはめになってしまった。という経験をされた方は少なくないと思います。
これは治療が失敗したのでしょうか?使った薬が間違っていたのでしょうか?
今回のコラムではこのテーマについて解説して行きます。
特定のお薬を使えば深い虫歯に侵された神経が助かると誤った認識を持っている方がとても多いです。
残念ながら一部の歯科医師もそう認識していることがあります。
けれどもそれは誤解です。薬剤だけで神経を生かす効果があるならそういった治療は失敗しないはずです。
深い虫歯で神経を残すために行う治療の成功の鍵は
使うお薬でなく元々の神経の健康度と封鎖(虫歯治療後の削った穴をいかに隙間なく密封できるか)にかかっています。
近年、歯の神経(歯髄)の細胞についての研究が進み、特に神経の虫歯菌に対する防衛能力について、多くのことがわかってきています。
例えば、『神経が元気だと多少虫歯が残っていても、外からの刺激をブロックするように密封することで神経は自己治癒する』等がわかってきています。
また、封鎖がしっかりしていると、虫歯菌への栄養供給が途絶えて虫歯菌が活動停止すると考えられており、神経や象牙質の細胞は内側から新たな歯(第3象牙質)を作ることができることもわかっています。
このような健康な神経の性質から、最近では神経に近い深い虫歯では、神経が露出しないようあえて虫歯を全部取らないという虫歯治療法も多く報告されています。
わざわざ特定のお薬を使わなくても神経が健康で、封鎖がしっかりしていれば神経は自己治癒し、助かるのです。
神経を生かす治療が失敗するケースは、神経がすでに弱っていた、または封鎖(隙間なく密に詰める)がしっかりできていなかった、等が原因として考えられます。
***神経が弱っている場合は自己治癒出来ませんのでここの見極めが重要です。
***深い虫歯での密封する治療は難しいことが多いです、場合によっては隔壁も必要ですし、ラバーダム装着は必須です。
まとめますと
神経が弱っている場合
虫歯をとって密封しても、どんなお薬を使っても、神経は自己治癒力を失っていて健康に戻れませんので、治療はうまくいきにくい。
神経が健康な場合
虫歯をとって密封すれば、特定のお薬は使っても使わなくても神経の自己治癒力で治療は成功します。
繰り返しになりますが
***治療の成功には神経の健康度の見極めが大きく関わります。
大きい虫歯の治療の前には神経の健康度合いの検査を歯内療法専門医のもとで行うことをお勧めします。
参考文献