A:破折している状況により対応が変わりますので、詳しい診査診断が必要です。
治療器具の破折(ファイル破折)は避けられないのでしょうか?
治療器具の破折(ファイル破折)は偶発症であり、頻度は高くないものの100%避けられるものではありません。
根の治療を行う際に使用する長さ2~3cm程度の金属の器具をファイルと言います。我々歯科医師は、偶発症を予防する為に最善を尽くしておりますが、ファイルの破折は根管形態の解剖学的複雑さや治療中の理工学的な金属疲労やねじれる力がかかり、破折が起こる可能性があります。根管治療症例全体の2~6%に生じると報告されております。
破折ファイル除去の必要性について
ではファイルが根管内で破折している場合、除去しないといけないのでしょうか。根の中にファイルが破折した歯の予後を調べたデータによると、X線写真にて根の先に透過像がある場合は予後に影響があるものの、透過像がない場合は予後にさほど影響は与えないと考えられます。つまり、症例によってファイルを取り除く必要性もあれば、そのまま経過観察する場合もあります。では、どのような時にファイルを除去し、どのような時に経過観察するのでしょうか。
①治療の環境
ファイル破折が起きた時、通われている歯科医院では無菌的な環境で治療されていたでしょうか。もし、無菌的な治療がされていない、もしくは不明である場合は細菌が残っている、もしくは除去しきれていない可能性が高い為ファイルを除去する必要性が高くなります。
②歯の状態
ファイル破折が起きた歯がどのような理由で根管治療をされているかによって、除去するかどうかの指標となります。最初に神経を切除するような歯の様に細菌が根管内に少ない状態の歯と、無菌的な処置をせずに何度も治療を重ねて症状があったり、何もしなくてもズキズキ痛かったり、噛む時の痛みがある歯やレントゲン上で異常が認められる歯とでは、後者の方がファイル除去の必要性が高くなります。
(以前に治療を重ねたケースであるため感染度が高いと判断し破折ファイルを除去しました。症例提供:新谷武史先生)
③破折ファイルの位置
破折ファイルの位置をX線で確認し、歯科用顕微鏡(マイクロスコープ)にて破折ファイルを視認することが出来れば、除去することができる可能性が高いかもしれません。しかし曲がった根の先など、器具除去のために歯を削る事で歯が割れてしまうリスクが高まってしまったり、無菌的な環境での滅菌された器具の破折である場合などメリットよりデメリットが上回った場合はあえて除去せず経過観察を行うことがあります。
(初回治療のケースで湾曲部の先でファイルが破折してしまったが無菌的環境で滅菌ファイルを使用しているため感染の可能性が低いと判断し経過観察を行っているケースですが予後良好で推移しています。症例提供:新谷武史先生)
以上のように、様々な条件を検討した上で治療方針を決定します。場合によっては根管の中から除去せず外科的に除去した方がかえって保存的(歯を残すことに有利)な場合もあります。
(ファイルが根の中と根の外にあるため外科的にファイル除去をしたケース。症例提供:髙橋宏征先生)
良好な根管治療の予後を得るには根管の適切な拡大清掃と十分な洗浄が重要です。
根管の中に残ってしまったファイルを除去することが良好な根管治療の予後を得るために必須ではありません。しかしながら根管の適切な拡大清掃と十分な洗浄を行うことを妨げるようであれば除去する必要があります。
ファイルを除去するには、歯科用顕微鏡(マイクロスコープ)等の機器や専用インスツルメントなどのトレーニングを受けていることや、十分な診療時間等が必要です。専門医であれば、条件を満たしておりますのでご相談いただければと思います。
<参考文献>