A.『根の治療が必要な根尖性歯周炎の原因は細菌です。歯(特に歯根)の割れ方によって、細菌を減らし封鎖をすることが困難であることから根の治療で対応できないことがあります』
歯茎が腫れてしまい歯科医院を受診したところ『歯が割れてしまっていますね。』と言われたことがある人、いませんか?
根の先に病変がある、いわゆる根尖性歯周炎はもともと神経や血管のあった根管と言われる部分や、あるいは根の先端の外側まで根管内を通って細菌の感染が広がることが原因ですが、「歯が割れてしまう」ことによって「根の治療」の対象とならない場合があります。
①歯が割れ方にはいくつかの種類があります
歯の割れ(破折)はいくつかの種類に分けられ
破折部分による分類
・歯冠(歯茎よりも上の噛む部分)が破折したものを歯冠破折
・歯根(歯茎よりも下で支えている部分)が破折したものを歯根破折
破折方向による分類
・歯の植立方向に対し水平に破折しているものを水平性歯牙破折(主に前歯)
・歯の植立方向に破折しているものを垂直性歯牙破折(主に臼歯)
と分類されます。
特に根の治療の場合に問題になるのが、垂直性破折で歯を支える周囲組織に達する位置まで歯が割れている場合です。
破折があったとしても、全て歯の周囲組織までは破折ラインが達するとは限りませんが、歯には常に食事中や就寝時にも咬合力といった力が作用し続けますので、経時的に破折ラインが進行していき、歯の周囲組織まで達してしまう場合も少なくありませ。
②歯が割れるとどうして根の治療の対象にならないのか?
根の先の病変である根尖性歯周炎は前述したように根管内、あるいは根尖の外側まで細菌がある一定以上数増えたときに発症しますが、歯の破折の状況如何によっても細菌はやはり根管内や根尖まで達してしまうことがあります。
経時的に繰り返し荷重が歯に加わることによって破折ラインがどんどん垂直性に進んでいくと、そこが細菌の経路になります。そうなると
①たとえ頑丈で適合の良い被せ物をしたとしても、歯茎より下までは被せ物で覆うことができないので、破折ラインがそのまま残ってしまい、細菌の侵入経路も残ってしまう。
②侵入経路が残るということは、いくら根管治療によって根管内の細菌数を減らしたとしても、根管内の細菌を除去しても新たな細菌の侵入により、歯内療法を行っても治癒しない、あるいは治癒したとしても時間経過と共に破折が拡大し再び細菌が侵入してくる可能性が高く、予後不良となりやすい。
ことによって根管治療の努力が実らず、根管治療が無意味になってしまいます。
では破折を接着剤などで治せばいいじゃないか?という疑問が湧いてきます。実際に破折歯の修復を試みて成功している例もあるにはありますが、世界的に見てもほとんどの場合時間経過とともに再び破折してくることが多いと言われています。
③なぜ歯が割れているのか否かの鑑別が根管治療にとって重要なのか?
実は簡単なように見えて難しいのが、破折の確認作業です。割れているのを見つけるだけ、ですが、実は歯が割れているかどうか、特に根管治療の弊害となる歯を支える周囲組織まで破折が達しているかどうかは、相当確認が難しいのです。
少なくとも患者様の症状からだけで破折を判断することはできません。破折によって生じる症状、あるいはX線やCTでの確認だけでは断定できない場合も多いのです。
まず症状だけで言えば下記のような病気が歯にある場合、破折ととてもよく似た症状が起きます。
- 歯周病
- 根尖性歯周炎
- セメント質剥離
またX線写真、CT撮影をおこなっても、破折ラインがたまたまX線の向きなどで検知されなかったりする場合が多いのです。
<レントゲンやCTでは破折の確認はできなかったが、マイクロスコープで直視して破折の確認ができたケース>
したがって症状や画像からでは垂直性歯牙破折を鑑別診断することは難しく、実際に垂直性歯牙破折を診断するものは直接目視で確認しないといけません。
しかし、破折している部位は目視では判断できないくらい細い破折線しかないことも多く診断が難しく、術前診査で破折がわかることは多くなく、顕微鏡を使用して過去の治療の充填物を丁寧に除去し、根管内を清掃して確認する必要があります。外科的に歯茎をめくって直接確認を行うこともあります。
④なぜ歯内療法専門医が破折確認に有効なのか?
歯内療法専門医でも時に鑑別な困難なケースもある歯の破折、だからこそ残せるかどうかに直結する非常に重要な診断は専門医の判断を仰ぐことが、問題解決の最短距離かも知れません。
まずはX線、CTなどを駆使して発見に努めるのはもちろんのこと、さらに歯科用顕微鏡によって根管内の深い部分まで目視で破折ラインを追うことも可能ですし、場合によっては外科処置を併用することもあります。
破折をはじめとして、根の治療では解決できない問題は様々で、問題を把握できずにそれ以上の細菌減少を望めないにもかかわらず長期間ずっと歯内療法を行なったり、あるいは本来は問題解決できる、したがって抜歯する必要がないにもかかわらず、曖昧なまま破折であると結論づけたりされることがないのが患者利益につながるからです。